作業環境測定機関 労働安全衛生コンサルタント事務所 専門家による石綿分析

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震災アスベストプロジェクトからアスベスト・リスクコミュニケーションプロジェクトへ


震災アスベストプロジェクトでの熊本調査
 センターが有志とともに3年間にわたって進めてきた震災アスベストプロジェクト(以下震災PJ)は、昨年の熊本地震での取り組みなどの成果を残して終了し、新たにアスベスト・リスクコミュニケーションプロジェクト(以下リスクコミュニケーションPJ)が始まりました。
 震災PJ最終年度の昨年度には熊本地震が発生し、これまでに4回の調査を実施してきました。今年に入り、熊本地震での調査は2017年1月24日と25日に実施されました。この調査では熊本市の協力の元で、解体現場と災害廃棄物仮置き場を巡視しました。1月24日は2班に分かれて計42ヶ所の解体現場を巡視しました。全国平均と比較して破砕などの問題事例が少なく、表示も適切な現場の割合が多いことがわかりました。成形板についての届出条例がある自治体と同レベルに優秀といえます。東日本大震災では、被害の甚大さもあってアスベスト対策は後手にまわりました。震災後の被災地という点を考えると、熊本での対応は特筆すべきといえます。労働基準監督署もアスベスト対策に力を入れて頻繁に巡視などを実施していることも奏功していると思われます。
 1月25日は市内3ヶ所の廃棄物の仮置き場を巡視しました。前回の9月よりも廃棄物の量が増えていますが、仮置き場内は整然としており、良く管理されている印象を受けました。アスベスト含有建材も表示されて分別されています。しかし前回と同様にフレコンバッグには細かく破砕された状態でアスベスト含有建材が入れられていました。一部は袋にも入れられずに露出しています。解体現場で破砕されて持ち込まれていると考えられます。細かく破砕することによってフレコンバッグに入る量が増えることが理由のようです。厚生労働省は2015年11月、アスベスト含有建材は破砕せずに大きなフレコンバッグに入れるように通達を出していますが、それが守られていない状況が確認されました。この状況は1月27日、厚生労働省化学物質対策課を訪ねて報告し、善処を要望し、2月8日に仮置き場での適切な取り扱いを求める事務連絡が出されました。私たちの要望の趣旨としては破砕禁止の徹底でしたが、それについては2015年11月の通達の徹底によって対応したいとのことでした。
 
熊本での報告会
 熊本地震から1年を期してシンポジウム「阪神淡路大震災、東日本大震災そして熊本地震
シンポジウム」を4月21日に熊本市内で開催しました。報告会では震災PJをともに進めてきた熊本学園大学の中地重晴さんから熊本地震とその被害について、立命館大学の南慎二郎さんから熊本地震とアスベストについて、センターの外山尚紀が東日本大震災の教訓と熊本地震での石綿対策について報告しました。ひょうご労働安全衛生センターと中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の協力により、阪神淡路大震災での被害について、明石市労働組合と労災認定を受けた遺族から報告がありました。シンポジウムには熊本県と熊本市の担当者も参加し、行政の取り組みについても報告がありました。
 
まとめ
 熊本地震後のアスベスト対策は、地元自治体の好対応によって、初動の調査が迅速に実施できたといえます。今後は、改めて震災に備える石綿含有建材の台帳整備などが重要で、予め吹付け石綿と石綿含有吹付けロックウールが把握されていれば、更に迅速な対応が可能となり、石綿ばく露を減らすことができます。震災後の解体工事での石綿対策も行政が主導して現状で可能な限りで的確に実施されています。全ての現場を巡視している熊本県、熊本市の努力は評価すべきで、そのために破砕などの問題事例が少ないこともわかりました。しかし、実際には仮置き場で確認されたように、石綿含有成形板が破砕されています。この現状を調査した上でレベル3建材の法規制を見直すことを検討すべきと考えます。
 

 
 
 熊本市内のがれきの仮置き場で破砕された石綿含有建材が野積みになっている様子

 

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