石綿分析の現状と課題(2) JIS A 1481-1による分析の実際

1.はじめに
 2015年3月JIS A 1481が4部構成で発効したことにより、2つの定性分析と2つの定量分析方法が利用可能となりました。JIS A 1481-1(定性分析法、以下-1)はISO22262-1に相当するもので、実体顕微鏡と偏光顕微鏡を使用する国際的に広く使用されている方法です。本研究では-1 の定性方法の特徴と実際の分析の方法を紹介します。 


 
2.概要
 JIS-1における石綿の形態的な定義は石綿に特有の石綿様形態(asbestiform)です。鉱物は石綿様形態(asbestiform)となるものは特殊で、同じ組成でも大多数はそれ以外の形態をしています。そのため実体顕微鏡と偏光顕微鏡を使用して、この形態的な特徴に合致する繊維を探すことが基本です。また対象となる建材製品は多様で、様々なマトリクスを含んでいることから、これらと石綿との区別をつけることが重要です。写真は同じトレモライトですが、左は石綿で、右は鉱物のトレモライトです。




 また、この分析方法では分析者が目視で判断する能力が求められます。また、-1では灰化処理、酸処理、浮遊沈降などの前処理方法が記述されていますが、例示されているだけで必須ではなく、マトリクスに応じて分析者が選択します。含有なしの判定のための具体的な手順も記述されていないことから、分析者の裁量で前処理方法を決定し、分析者の責任で判定することが求められます。
 実際の分析では建材の種類に応じた前処理方法を選択することが重要です。前処理方法としては
1)酸処理:容器中で塩酸によりセメント分などを溶解させ、吸引濾過する。
2)簡易酸処理:スライドグラス上で試料に塩酸を滴下しセメント分などを溶解させ、塩酸を浸液として偏光顕微鏡で観察します。
3)灰化処理:電気炉などでセルロースなどの有機成分を灰化します。
4)簡易灰化-酸処理:スライドグラス上で試料をライターなどで燃焼させた後で塩酸を滴下してセメント分などを溶解させ、塩酸を浸液として偏光顕微鏡で観察します。
5)加熱処理:ビニルなどの有機成分にコーティングされた石綿に対して、ホットプレートで観察用スライドグラスを180℃程度に加熱してコーティングを溶かして観察します。


6)層別分析 塗材や床用ビニルタイルなどの層状の材料は鋭いメスで層ごとに剥がし、層別に分析します。塗材で酸化チタンを含むものは粉砕してしまうと石綿繊維をコーテングしてしまい、顕微鏡観察が困難になります。


建材ごとの前処理方法の例を表.1に示します。


3.まとめ
  -1は建材に応じた前処理法を選択すること、顕微鏡による観察のみで石綿含有の有無を判定することから建材の知識と分析の習熟が必要とされます。英米等では分析者の資格制度と精度管理制度が1980年代から整備されてきましたが、日本では未だこれらが確立していません。発がん物質である石綿の分析の誤りは重大な結果を招くおそれがあります。分析精度向上と維持制度の確立が急務です。


 




 関係論文 

 「建材等製品中の石綿含有分析方法 JIS A 1481-1の特徴と実際の分析」

日本における石綿の定義と建材等製品中の石綿含有分析の課題





ページの先頭へ

 

top