作業環境測定機関 労働安全衛生コンサルタント事務所 専門家による石綿分析

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英国の石綿規制の歴史と背景

1.はじめに
 日本の石綿規制は、把握(建物調査と分析)、維持管理、除去、廃棄の全ての面で不十分と指摘されています。2016年秋、私たち建築物石綿含有建材調査者協会のメンバーは石綿対策が進んでいるとされる英国へ視察に行きました。その報告の一部として歴史と背景について発表します。 
 
2.背景
 英国は世界最先端の工業国として発展してきた反面、労働災害や公害問題が頻発してきました。18世紀には世界で最初の職業ガンである煙突掃除労働者の陰嚢ガンが発見され、1952年のロンドンのスモッグでは12,000人が死亡しました。世界で初めての大規模な原子炉事故も発生しています。産業活動がもたらす深刻かつ複雑で予測困難な災害にどのように対処すべきか?という課題に対して、法律による規制は後手にまわり、全てに対処することは困難なため、現場でのリスクアセスメントによるリスク低減という自主対応型の活動を主体にすべきとする「ローベンス報告」が出され、1974年には自主対応の要素の強い労働安全衛生法が施行されました。英国では法的な基準は最低限だが、事業者はリスク管理をしていなければ罰せられるという仕組みです。「大きなリスクを許容しない」逆にいうと「許容できるリスクはやむを得ない」という発想で、日本とは考え方が異なります。その結果として労働災害の発生確率は日本よりも高いですが、10万人あたりの死亡者数は日本の約1/4となっています。

 
リスクアセスメントの主要な要素は、1)リスク情報の入手と共有、2)事業者、労働者、専門家等の役割の明確化による枠組みつくり、3)実施するための技術的な情報を提供するガイド等による容易化、4)監督行政による監視です。石綿の規制もこの文脈の中でみる必要があります。
 
 
 
3.歴史と特徴
 
 1931年の規制開始から現在まで、一貫して規制が強化されてきました。主な規制の開始時期を日本と比較した表を下に示します。日本では、建設業の規制、角閃石石綿の禁止、 1f/ml以下の規制値について英国よりも約20年遅れて実施しており、未実施の規制もあります。規制は保健省の安全衛生庁(HSE)が担っており、労働安全衛生上の施策ですが、建物所有者も規制対象としています。

 
 
 英国の石綿対策の特徴は、1)情報共有:労働環境における石綿のリスクの重大性がHSEにより積極的に発信され、共有されている点。2)枠組み:建物所有者・管理者、除去・解体事業者、資格者、作業者の役割と責任が明確な枠組みが作られている点。3)技術ガイド:石綿規則(The Control of Asbestos Regulations 2012)、行為準則(Code of Practice)の下位に位置付けられるHSEのガイド例えば除去事業者のガイド(HSG247)には石綿ばく露を防止するための必要な措置が記載されており、基本的にそれに従って対策を採っています。4)監督行政:HSEでは抜き打ち検査、ライセンス事業者の監督を効果的に運用し罰則、資格停止や中止命令を発しています。

 
  

  



 
 
3.まとめ
 
 英国の石綿規制は、日本よりも20年前後早く施行されており、効果を上げています。今後日本では未実施で重要と思われる事項について実行を検討すべきです。英国の規制はリスクアセスメントが基礎となっており、情報共有、枠組み、技術ガイド、監督行政の主要な要素によって構成されていることを念頭に置く必要があります。
 

 
 
 
 
 
 
 
 関係論文 
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