作業環境測定機関 労働安全衛生コンサルタント事務所 専門家による石綿分析

tokyo occupational safety and health center  東京労働安全衛生センター 
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アスベスト
リスクコミュニケーション
マニュアル
 
1.0版


 1.はじめに

 アスベストの被害が増え続けています。2016年にはアスベストで発症するとされる悪性腫瘍である中皮腫の死亡者が1550人に達し、アスベスト関連疾患による労災認定者は統計上の労働災害による死亡者を超え1000人以上になりました。WHOは全世界のアスベストによる死亡者を年間22万人と推定しています。
 石綿は、過去に建材を中心に大量に使用されました。身の回りに残されていて、どこにでもある強力な発がん物質です。現実に大きな被害を出しており、これからも被害が増え続けます。病気の潜伏期間がきわめて長い、容易に発じんして目に見えず自覚なくばく露する、職域だけでなく周囲の人々に被害をもたらす、などの独特な特徴があります。職業上のリスクとなる有害物質はたくさんありますが、アスベストのような物質は他にはありません。
 私たち東京労働安全衛生センターは、東日本大震災被災地のアスベスト対策を進める活動に取り組みました。東日本大震災では地震と津波によって多くの人命が奪われると同時にたくさんの建物も被害を受けました。大量に残されたアスベスト含有建材が一度に被災したことによって、その後の復旧・復興の過程でアスベストが飛散し、作業に従事する労働者と周辺住民がアスベストの粉じんを吸ってしまう(ばく露)状況がありました。「建物にはアスベストはもうないはずだ」、「スレート板は非飛散性アスベストだから飛散しない」、「すこしくらいは吸っても大丈夫」、また逆に「ちょっとでも吸うとがんになる」などの誤解があり、適切な対策がとられていない場面が多くみられました。
 アスベストのばく露を防止するためには被害をうけるおそれのある人々が対策に参加することが重要です。これは職場では「リスクアセスメント」と呼ばれており、世界中で行われていますが、日本の中小の解体の現場では未だ普及していません。アスベストの被害は職場を超えて周辺住民と建物を利用する人々に及びます。住民、建物利用者、建物所有者、工事業者、行政などの関係者が情報を共有し、対策に関与することをリスクコミュニケーションと呼びます。アスベストの対策では、このリスクコミュニケーションが効果的であり、重要とされています。
 このマニュアルは、アスベストのリスクコミュニケーションのために、リスクを知り、伝えることと対策のための行動をとることの2つに着目し、「伝えるツール」と「使えるツール」を提供します。
 
 この活動は2017年度独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けています。
 
 
  

 2.アスベストを知る

 
アスベストとは?
 「アスベスト」は「石綿(せきめん、いしわた)」とも呼ばれる天然の鉱物で、地球上の各地で産出します。有用な鉱物として、古くから利用されてきたが、発がんなどの人体への影響があり、日本を含む主な先進国ではすでに輸入や新規の使用は禁止されています。 アスベストは非常に発がん性が強く、潜伏期間の長く、大きな被害が現実に発生しています。そのために世界中で「殺人粉じん(Killer dust)」や「最悪の産業殺人者(Worst industrial killer) 」また「静かな時限爆弾(Silent time bomb)」などの通称で呼ばれています。
 
アスベストの特徴
 アスベストは地下で岩石ができるときに水、熱、圧力の作用で岩石が繊維のような形にできあがるものがアスベストです。アスベストは鉱山で採掘されたものを、選別して開綿(ほぐすこと)しただけで、そのまま製品に入れられます。繊維状と言っても針金のようなものではなく、ごく細い繊維で柔軟性があります。土中から掘り出した石が綿のようにふわふわとして手で裂ける。「石綿」という文字のとおりに「石」の「綿」です。
 
 アスベストの特徴を示す動画(英語)
  http://cutv.ws/documentary/watch-online/festival/play/7036/The-Evil-Dust---Late-Lessons-from-Early-Warnings-4-8
 
アスベストの種類
 アスベストは6つの種類があります。「蛇紋石」という鉱物の種類に属する「クリソタイル(白石綿)」、「角閃石」に属する「アモサイト(茶石綿)」、「クロシドライト(青石綿)」、「トレモライト・アスベスト」、「アクチノライト・アスベスト」、「アンソフィライト・アスベスト」です。これらのうちクリソタイルが最も多く使用され、次いでアモサイトとクロシドライトが使われました。
 
 

 
 
 
アスベストの大きさ
アスベストの最も細い単繊維は 0.02μmで、400 倍の光学顕微鏡では解像度の限界のため見えません。目
に見えるアスベスト繊維は数百、数千の単繊維が集まった繊維束です。海をわたる PM2.5 と比べて百分の 1 位、直径 30μmの花粉と比べて千分の 1 の大きさになります。花粉用のマスクではアスベストの単繊維は捕 まえることができません。 
 
 
 
 
アスベスト含有建材
「石綿(アスベスト)含有建材データベース Web 版」(2014 年 2 月版)には石綿含有建材は 42 種類、
2140 製品が記載されています。吹付け材には吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウールなどがあり、「レベ ル1」とされ、最も飛散性が高く危険なものです。これらの除去時にはプラスティックシートで密閉した上、 内部を陰圧にして石綿粉じんの漏洩を防ぐ厳重な対策が求められます。「レベル2」はレベル1に次いで飛散 性が高く、除去時には基本的にレベル1と同等の対策が求められます。これには、耐火被覆板、配管保温材、 屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材の 4 種類がある。これら以外が「レベル3」です。レベル3は最も種類と 製品が多く、先のデータベースではスレート板、ケイ酸カルシウム板、サイディングなどの成形板 28 種類、 2030 製品が記載されてます。
石綿(アスベスト)含有建材データベース Web 版(2014 年 2 月版、国土交通省・経済産業省)
http://www.asbestos-database.jp
 
主なアスベスト含有建材
 

 
建材の中のアスベスト
建材の中のアスベストは繊維の束の状態で入っています。肉眼での観察でも見えるものもあります。スレート板の破片をルーペで拡大すると白い繊維がセメントと混ざって入っているのが確認できます。スレート 板などのセメント系の建材のほとんどはルーペでアスベスト含有を確認することができます。顕微鏡で 400 倍に拡大すると川の流れのような白く光る繊維がみえます。 
 
 
 
詳しく知りたい
石綿含有建材の見分け方http://www.metoshc.org/asbestos/as_miwakekata.html

 
 
ばく露量とばく露濃度
 建材などの製品に入っているアスベストを切ったり削ったりして、力が加わったときに粉じんが発生します。そのアスベストの細かい粉じんを呼吸によって吸い込むこと(ばく露)によって中皮腫や肺がんなどの 重篤な病気を発生させます。しかし少しでもアスベストを吸った人が全て病気になるわけではありません。 一般環境中にも微量のアスベストが存在していて、アスベストを全く吸わないということはありません。ア スベストのばく露量に応じて発がんのリスクが増加します。つまりたくさんアスベストを吸えば吸うほど、 発がんのリスクが増えていきます。ばく露量は下の式で計算します。
 
 
 ばく露量=ばく露濃度×ばく露時間
 
 
 
 ばく露濃度は一定の体積の空気の中のアスベストの本数で示します。これは空気をフィルターでろ過して アスベストを捕集して、その本数を数えます。例えば、1f/L は1L(リットル)の中に 1 本のアスベスト が入っている状態の空気です。1,000f/mL は1mL(ミリリットル、リットルの千分の1)の中に 1,000 本 のアスベストが入っている状態の空気です。1f/L と 1,000f/mL は同じ濃度です。 
 
 
 
 
アスベストの濃度の基準
 では実際にどれくらいのアスベストにばく露するとどれくらいの発がんリスクが発生するのでしょうか?そのめやすとなるのが許容濃度です。労働環境での許容濃度は日本産業衛生学会が以下の数字を示しています。
 
   日本産業衛生学会許容濃度委員会の勧告値
    クリソタイル  0.15f/ml(150f/L)
    クリソタイル以外を含む  0.03f/ml( 30f/L)
     https://www.sanei.or.jp/images/contents/309/kyoyou.pdf
 
 この勧告値の条件は、週40時間、年間48週間、50年間(96,000時間)のばく露を受けた場合に1000人に1人が発がんを起こす、というものです。これを元にして濃度、時間から発がんリスクが計算できます。
例えば
 
  クリソタイル1f/mLに1時間ばく露→100万人に対する発がんリスク=0.068人
  アモサイト、クロシドライト1f/mLに1時間ばく露→100万人に対する発がんリスク=0.28人
 
実際のアスベストの濃度
 では、実際にアスベスト含有建材に力が加えられた時にどれくらいのアスベストが発生するのでしょうか?これまでの現場で行われた測定値からだいたいの濃度を知ることができます。
 
 
 
例えば、大工さんが建材を電動丸ノコで切断する作業のとき(2,000〜20,000f/L)に仮に10,000f/l(10f/ml)の濃度の石綿にばく露してしまい、その作業を1年間続けたとすると、10f/ml×1,920時間(40時間×48週)×0.28=5,376、100万人について5,376人の発がん、つまり1,000人あたり5.4人の発がんリスクになります。解体工事でスレート板(クリソタイル含有)を破砕する作業のとき(80〜190f/L)に仮に100f/Lの濃度が発生しその1/10(0.01f/mL)が外部に漏洩して、その近くで1週間ばく露してしまったときは、0.01f/mL×40時間(8時間×5日)×0.068=0..3、100万人について0.03人の発がんリスクになります。
 
アスベストの発がんリスク
 アスベストのリスクは他の有害物質と比べて非常に強いのが特徴です。2005年に新聞報道のスクープが引き金になった「クボタショック」では、石綿管を製造する工場から漏洩したクロシドライト石綿中皮腫が5人(当時)発生していることが問題になりました。調査の結果、半年後には85人の中皮腫が確認され、2017年には315人の被害が出ています。周辺住民に被害が発生している状況は公害といえますが、水俣病のような水質汚染、四日市ぜんそくのような大気汚染と異なるのは、生産の過程で発生した不要な有害物質を意図的に廃棄したのではなく、漏洩したわずかな量の石綿によって発生している点です。石綿の発がん性が非常に強いためにこのようなことが起きてしまいました。
 
  他の有害物質との比較
  トレモライト石綿の許容濃度30f/L    →  0.00027mg/m3
   結晶質シリカ(発がん物質)の許容濃度        0.03 mg/m3
  鉱物性粉じんの許容濃度                     1 mg/m3
   
 
 石綿と他の有害物質と発がん性の強さの比較をすると上のように、石綿ではない鉱物粉じんよりも4桁、発がん物質で石綿と同様に大きな被害を発生させている結晶質シリカと比較しても2桁石綿のほうが危険であることがわかります。
 
 
アスベストの被害
 アスベストは非常に強い発がん物質であるために、アスベストに特有の被害を発生させています。多くの職業上の有害物質は外部に影響を与えることはありませんが、アスベストは職場を超えて被害と発生させています。クボタショックは典型的な環境ばく露によって引き起こされた被害です。建物ばく露は建物に施工された吹付け石綿に接触や振動、風などのわずかな力によって石綿が飛散し、建物利用者がそれにばく露することによって健康被害を受けるケースです。
 
  職場に留まらない石綿の被害
  ①職業ばく露(石綿作業によるばく露)
  ②環境ばく露(発生源の周辺でのばく露)
  ③建物被害(建物内の吹付け材等によるばく露)
 
 「リスクコミュニケーション」が必要なのはそのためです。
 
 

 3.リスクコミュニケーション

 
リスクコミュニケーションとは?
 職場にはリスクがたくさんあります。物を作る工場では危険な化学物質や強力な機械による災害のリスクがあります。事務所では長時間労働、ストレス、ハラスメントなどが問題になっています。多種多様なリスクに対して働く人の安全と健康を守るために「リスクアセスメント」という方法が有効とされ、世界中で行われています。リスクアセスメントとは現場の労使がリスクについての情報を共有し、リスクを評価し、それを減らすための対策を実行することです。重要なのはリスクを受けるおそれのある労働者が情報を得て、対策の決定に参加することです。職場のリスクが外部に影響を与えないのであれば、効果的な職場でのリスクアセスメントで十分ですが、アスベストは極めて発がん性が高く、建物利用者と周辺住民にも現実の被害を発生させています。そのため被害を受けるおそれのある建物利用者と周辺住民も関係者として、リスク情報を共有し、リスク低減に結びつけるリスクコミュニケーションの重要性が注目されています。
 つまりリスクコミュニケーションとは、建物の所有者や管理者、石綿の作業を行う施工業者、建物の利用者、周辺の労働者と住民などの関係者がアスベストのリスク低減を目的として、情報を共有し、意見交換し、対策の決定に関与し、最終的に信頼を築くことです。
 環境省は2017年に「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン(アスベスト・リスクコミュニケーションガイドライン)」を公開しました。ガイドラインではリスクコミュニケーションの有効性について「リスクに関する情報を関係者が適切に共有し、相互に意思疎通を図るリスクコミュニケーションは、リスクを低減する上で有効な手段とされる。」とし、「リスクコミュニケーションは、これを行うことにより相互理解を深め信頼関係を構築し、必要に 応じて飛散防止対策の質を高め、リスクの低減に役立てることを目的としている。」としています。法的な義務ではありませんが、公的な機関が発行した建物利用者と住民を守るためのガイドラインとして活用することができます。
 
  環境省 アスベスト・リスクコミュニケーションガイドライン
   https://www.env.go.jp/press/files/jp/105630.pdf
 
 
リスクコミュニケーション事例
 私たちが約20年間に経験したリスクコミュニケーションの19事例を紹介します。 【別冊】
 
  詳しく知りたい http://www.metoshc.org/_userdata/2018/rc_ex.pdf
 
 
 
 
 
成功するリスクコミュニケーション
 リスクコミュニケーションの19事例からリスクコミュニケーション成功のために重要なポイントは、以下の3点です。
 
①リスク情報を正しく伝えること
②被害を受けるおそれのある人があきらめずに声をあげること
③信頼できる機関を活用すること
 
 
①リスク情報を正しく伝えることのために
 1.アスベストのリスク
 3.伝えるツール
 を使います。
 
②被害を受けるおそれのある人があきらめずに声をあげることのために
 4.使えるツール(作成中)
  を使います。
 
③信頼できる機関を活用すること のために
 5.コンタクトリスト(作成中)
  を使います。